2006年11月19日

「霞を食って−北冬書房の30年」

「アナキズム第8号」

本日入荷した「アナキズム第8号」に、北冬書房の高野慎三さんの「霞を食って−北冬書房の30年」という文章が載っていました。出版業界に関心がおありの方は、家族のみの極小出版社が、いかにして質の高い出版活動を続けてこられたのかを知ることができますから、ぜひ読んでみてください。
北冬書房はその前身の幻燈社時代から数えると40年近い歴史があり、途切れずに年に数冊のペースで刊行を続けておられます。メインはつげ義春、つげ忠男、林静一などの漫画本で、単行本や選集類のほかに逐次刊行物として「夜行」が20巻、「幻燈」が6巻まで刊行されています。そのほかは鈴木清順などの映画本、旅や骨董関係の趣味本、そしてアナキズム本が少々というのがその主なラインアップです。うちの店は現在は日販から仕入れていますが、幻燈社時代から北冬書房の初期までは直接取引をお願いしていました。したがって、直接お会いしたことはありませんが、何となくその浮き世離れした出版活動の一端を垣間見ることができなくもありませんでしたが、この「霞を食って」を読んで初めてその経営の実態を知ることができました。よーするに出版では1円も儲かっていないというか、儲けようとは考えておられなくて、とにかく次の出版に必要な経費のみ回収できれば充分ということのようです。そしてご家族の生活は、所得税を払う必要もない程度の文房具屋の経営によってまかなっておられるのですが、衣食の残りは本作りにつぎこんでおられるらしいので、実質的には赤字でしょう。それでもご家族一同衣食住にはまったくご関心がないそうで、それゆえにこのような出版社が奇跡的に続いているわけです。それにしてもまるでなにかの宗教活動か修養団のような禁欲さですが、その出版物がろくでもない宗教本なんかではなくて、漫画ややくざ映画の本というところが実に何ともまことにありがたいことです。同じような経営形態をとっておられるらしい幻堂出版さんも、北冬書房さんを見習って30年くらいは続けていただきたいものですが、北冬さんと違ってお酒がお好きらしいのでちょっとそのあたりが何かもしれません。
三月書房で販売中の北冬書房本の在庫はこちらの頁に掲載しています。

「アナキズム8号」には、吉本隆明さんの未刊行の講演も収録されています。定価1000円、送料100円にて通販しています。お申し込みはこちら

参考サイト
 ◎北冬書房「万力のある部屋
 ◎アナキズム文献センター
 ◎幻堂出版大本営発令

posted by 三月山 at 11:28| Comment(1) | TrackBack(0) | 「本」とか「雑誌」とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「アナキズム」8号を謹呈くださりありがとうございました。
宍戸さんは知ってか知らずか。イチオーはワタシの天敵であろう北冬書房の高野さんの文章、なるほど納得の世界であり、オレよりは幸せなまわりの人かなとの思いもありますが、でもそうして本を出すのはすごいことです。さらに言えば人の好意に甘えていませんかとも言いたい。(また文句か…では、なくてワタシが結果そのようだから)ワタシも不幸な直ファーストコンタクトさえなければ、好意をいだいていたと確信します。
最近、絶縁していた漫画作家のうらたじゅんさんからメールをいただき感激したこともあり、ワタシは下手糞ながら少しスライドさせた創作世界へ突入します。それでも年に一冊とかのスローブックもありかな!? 幻堂本体はとっくに受けないまま30年きてるがさらに幻堂出版をあと20年というのはどうでしょう? 幻堂新社つう発想はありますが…
ところで、あくまでも、このコメントは面白い雑誌「アナキズム」をありがとうございました!!がメインです。(これ、再録させて下さいね)
Posted by 幻堂なかの at 2006年11月21日 23:40
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