<天に唾する>京都の書店のうわさ 遺跡編23
新京極三条角の「さくら井屋」が1月15日で閉店していました。この店は和風のみやげもの屋というような認識しかなかったのですが、もともとは本屋だったことがわかったので、この遺跡編に追加しておきます。
昨年末に平凡社から刊行された鈴木俊幸著「絵草紙屋 江戸の浮世絵ショップ」にはこの店のことが、かなり詳しく取り上げられています。それによれば、「本屋株式」と大量の版木を購入し、「桜井屋治兵衛」の屋号で本格的に絵草紙屋としての営業を始めたのは天保十二年(1841)頃で、所在地は堀川通今出川舟橋でした。販売していたのは絵草紙や錦絵のほかは、双六や将棋盤やかるたといったゲーム類、足袋の型紙、潮汐などの早見表類など、現在なら実用書に分類されるようなものが主だったようです。絵草紙主体の商売は明治に入ってからは次第にだめになり、明治二十八年に現在地に移転してからは、商売の内容を土産品に徐々に移行していったとのこと。同店のサイトの残滓によれば営業品目は「天保年間より手刷木版画、封筒、便箋、祝儀袋、千代紙等を創作、販売しております。 他にも文庫、袋物等々、友禅染、西陣織の小物類、京人形、髪飾、京紅、等」とありますが、何十年か前までは野球盤やトランプなどのおもちゃ類も多かったような記憶があります。閉店告知の張り紙には「手刷り木版職人がいよいよ少なくなり、当店古来の商品を造ることがむつかしくなり」とありましたが、21世紀の小売商店の閉店理由としては、たいへん稀少といえるでしょう。
「絵草紙屋 江戸の浮世絵ショップ」鈴木俊幸著 定価2800円+税 平凡社